アーユルヴェーダ基礎[パンチャマハーブータ(五大元素)について]
アーユルヴェーダ基礎理論のベースになるものとしてパンチャマハーブータ概念があります。
トリドーシャ理論の元になるだけでなく、アーユルヴェーダ診断などの現場でも実際に活用されているパンチャマハーブータについての基本をまとめました。
パンチャマハーブータの意味
パンチャマハーブータは五大元素と訳され、宇宙構造原理の一つであり、物質化に関わるとされます。
パンチャ:5つ
マハー:大きい、偉大な
→ 先に顕れる微細なタンマートラ(音、触、色、味、匂い)に対して大きいという意味と、あらゆるものの構造原理であり、決して失われないものであるため偉大という意味があります。
ブータ:(物質的)要素
- アーカーシャ(エーテル・空)
- ヴァーユ (風)
- テージャス・アグニ(火)
- ジャラ(水)
- プリティヴィ(地)
パンチャマハブータの進化プロセス
パンチャマハーブータは、宇宙原理であるサットヴァ(純性)ラジャス(動性)タマス(不活動性)の優位性により進化すると考えられています。
- アーカーシャ(エーテル・空):サットヴァ優位
- ヴァーユ (風):ラジャス優位
- テージャス・アグニ(火):サットヴァ&ラジャス優位
- ジャラ(水):サットヴァ&タマス優位
- プリティヴィ(地):タマス優位
これら優位性はパンチャマハブータそれぞれの特性を顕すものとなります。
また、それぞれのマハーブータは、構成要素として他のマハーブータ全て含まれるとします。
例えば、アーカーシャマハーブータの構成は、アーカーシャ50%ヴァーユ 17.5%アグニ17.5%ジャラ17.5%プリティヴィ17.5%となります。
パンチャマハーブータの形態
パンチャマハーブータの形態にはニッティヤ(永遠の)とアニッティヤ(すぐに消える)もの2つあるとされています。
例えばヴァーユマハーブータは人体におけるプラーナ(生命の源)=ニッティヤとして存在すると同時に、消化管の動きなどの機能=アニッティヤとしても存在します。
ただしアーカーシャマハブータはニッティヤのみとされます。
パンチャマハーブータと属性
mahābhūtāni khaṁ vāyuragnirāpaḥ kṣitistathā| śabdaḥ sparśaśca rūpaṁ ca rasō gandhaśca tadguṇāḥ||27||tēṣāmēkaguṇaḥ pūrvō guṇavr̥ddhiḥ parē parē| pūrvaḥ pūrvaguṇaścaiva kramaśō guṇiṣu smr̥taḥ||28||
チャラカ サンヒター シャリーラスターナ 1/27-28
マハーブタは順番も重要だとします。
理由は、アーカーシャから順に、マハーブタごとの属性の数が増えていくからです。この属性数の増加は累積的、つまり先行するマハーブタの属性が後続のマハーブタに追加されます。
この法則をブータニ・プラヴェーシャと言います。
マハーブータ | 主な属性(感覚) | 追加される属性(感覚) |
アーカーシャ(空) | シャブダ(音) | – |
ヴァーユ(風) | スパルシャ (触) | シャブダ(音) |
アグニ(火) | ルーパ(色) | シャブダ(音),スパルシャ(触) |
ジャラ(水) | ラサ (味) | シャブダ(音),スパルシャ(触),ルーパ(色) |
プリティヴィ(地) | ガンダ (匂) | シャブダ(音),スパルシャ(触),ルーパ(色),ラサ (味) |
マハーブタは、対応する感覚器官が感覚機能を果たすための住処を提供するとしています。
そして感覚器官を通じてパンチャマハーブータで構成された物質を認識していると考えることができます。
パンチャマハーブータの特徴
それぞれのマハーブータは以下のように特徴を現します。
マハーブータ | 特徴 |
アーカーシャ(空) | アプラティガータタ(制限なく漂う、浸透する) |
ヴァーユ(風) | チャラットヴァ (可動性) |
アグニ(火) | ウシュナットヴァ(熱性) |
ジャラ(水) | ドラヴァットヴァ (流動性) |
プリティヴィ(地) | カラットヴァ (硬粗性) |
これらの特徴を身体に現れる兆候として捉えることで、アーユルヴェーダ診断や治療に応用をされます。
例えば身体にゴツゴツとした硬さが目立つときはプリティヴィ(地)の要素が増加してると判断します。
胎児期におけるパンチャマハーブータの影響
マハーブータは受精〜胎児期においても機能を果たします。ヴァーユは細胞分裂・増殖の機能(ヴィバジャナ)を、アグニは代謝の機能(パーチャナ)を、ジャラは水分・液体の機能(クレーダナ)を、プリティヴィは塊形成の機能(サンハーナナ)を、アーカシャは成長を促す機能(ヴィヴァルダナ)を起こします。これらの機能が適切に起こることで、正常な身体の構造が形成されるのです。
マハーブータ | 身体の構造と機能 |
アーカーシャ(空) | 音・聴感・軽さ・微細さ・空間 |
ヴァーユ(風) | 触れ知覚する、触覚、ざらつき、衝動、身体組織の構造化、身体とドーシャの動きの維持 |
アグニ(火) | 目に見える、視覚、明るさ、消化、熱量 |
ジャラ(水) | 味、味覚、冷たさ、柔らかさ、油っぽさ、潤い |
プリティヴィ(地) | におい、嗅覚、重さ、安定性、物質的形状 |
パンチャマハーブータとドーシャの基本構成
アシュターンガフリダヤ スートラスターナ20/2 にはドーシャの基本構成について以下のように記されます。
ドーシャ | パンチャマハーブータ |
Vata | アーカーシャ(空)ヴァーユ(風) |
Pitta | アグニ(火)※ |
Kapha | ジャラ(水)プリティヴィ(地) |
※ピッタドーシャとマハーブータについて
ピッタドーシャの機能を考えると、消化酵素の働きや耐熱維持など、アグニマハーブータのみでは適切な機能ができず、+ジャラマハーブタによるものであることがわかります。
関連記事:アーユルヴェーダ基礎[ドーシャについて]
パンチャマハーブタのアーユルヴェーダ診断への応用
アーユルヴェーダ診断の際にもパンチャマハブータの特性が活用されています。
マハーブータ | 診断のポイント |
アーカーシャ(空) | 体内の空間(消化管内など)で物質が自由に流れさまざまな音が発生する |
ヴァーユ(風) | 伝導・伝達活動、輸送プロセス |
アグニ(火) | 消化・変換・代謝過程、熱産生 |
ジャラ(水) | 体液のバランス、水分の維持 |
プリティヴィ(地) | 体の重さ、におい |
このように生理機能の異常を観察して、マハーブータの比率を評価します。
アーユルヴェーダトリートメントやマネジメントへの活用
パンチャマハーブータ理論は、トリートメントやマネジメントにも活用ができます。不調などの原因となるパンチャマハブータの比率を分析し、悪化要因と反対の質のパンチャマハブータでバランスを取ります。例えば、Jwara(発熱)の原因として未消化物やラサダートゥの増加により消化や代謝が滞っていることが挙げられています。この場合はプリティヴィマハブータとジャラマハーブータが増加しているとし、これらの質を鎮静する消化活性作用(アグニマハーブータ優勢)や苦味(アーカシャマハーブータとヴァーユマハーブータ優勢)のアーユルヴェーダ製剤を利用します。
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